| 仕事の質からか、イタリアは訪れるたびにその魅力にとりつかれてしまう。
 中でも
  小さな田舎町は周辺の風景と一体となって、
 その美しさにしばしば立ち竦んでしまう。
 
 一度冬の夜中に車で山間を縫って
 中部イタリアの小さな町に向かっていたことがあった。
 暗闇の中で車のライトだけが
 右に左に向きを変え乍ら進んでいた。
 ふと気がつくと何か明かりが見える。
 やがてそれは小さなクリスマスツリーだと分かった。
 車を進める、ところがそのツリーは少しずつ、
 やがてどんどん大きくなってゆく。
 さらに近づくにつれそのツリーの下に
 町の灯のようなものが現れ、
 それまで気が付かなかったのだが、
 ツリーの上方には星空が広がっていた。
 町に到着した。凛とした静寂を持った町だった。
 そして初め手のひらほどのクリスマスツリーは、
 その町全体の光の傘のようになっていた。
 翌朝分かったのだが、盆地に息づく町並みが
 少しずつ山の中腹までせり上がり、
 やがて森が続き、山頂には教会があった。
 クリスマスツリーは、その教会を頂点として
 山全体の大きさだった。
 
 こんな寂しい町にこんな大きな愛。
 
      
        
          | 福岡 通男 |  |  |